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2011年6月 5日 (日)

訪問者    (2011年4月20日)

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抵抗してもしょうがない、と心底思っていた日々の生活の大きな流れの中で、不意に誰かに呼ばれたような気がした。
いつものような一日の午後、いつもと同じような生活のための買い物帰り、いつの間にか誰かに呼ばれたような気がして立ち止まっていた。

焦点があって来た目の片隅に、赤い色が見える。
そこは燃えないゴミの集積場。
市役所に連絡してからでないと捨てられない、特別なゴミの日。
赤いキャディーバッグ。
いかにも女性用で、ウッドとアイアンが12本程入ったまま。
「10年くらい前のかな?」

そう思った自分に、思わず笑ってしまった。
「ゴルフをやっていたのは、もう15年くらい前のことなんだ..」

10年ちょっと前に結婚した。
もう年は40に近くなっていた。
夫はゴルフをしないし、する余裕も無い生活で、小学生の小さな子供が二人いる。
多分夫は、私がかってゴルフに夢中になっていたなんて、想像もつかないだろう。
私だって、それなりに幸せだと思っているから、ゴルフのことなんか話したこともなかったんだし。

20歳を過ぎてから、上司に勧められて始めたゴルフに、あっという間に熱中した。
上手くいくのも失敗するのもともかく面白くて、自分の自由になる収入と時間は、殆どゴルフにつぎ込んだ。
遠いけれど安かったコースの会員権を買って、競技ゴルフも始めた。
やっとシングルになった頃は、もう35歳を過ぎていた。
はじめはうるさく結婚を勧めていた両親も、その頃にはもう諦めていたようだった。

でも、40歳になる頃、相次いで両親が亡くなった。
不景気で、勤めていた会社が倒産した。
タイミングよく、その頃紹介された今の夫と、結婚することになった。
自分には他に選択肢が無かったような時期で、夫も悪い人ではなかったので、それも人生と納得した。
ゴルフをするような環境ではなくなったのが判っていたので、すべてのゴルフ道具と会員権は処分して、新しい生活を始めた。
それから十年以上、平凡で幸せな時間に流されて来たように思う。

そこを、呼ばれた。
両手に買い物したビニール袋を下げたまま、捨てられているキャディーバッグに近寄った。
「あの時に捨てたクラブみたい...」
心の底がちくりと痛んだ。

持って帰れば、またあの燃えるようなゴルフの日々を始められるかもしれない。
(両手のビニール袋を片手で持って...)

...歩き出した。
両手にビニール袋を持ったまま。

きっと、今はその時ではない。
流されて行く日々に、心のどこかで熱いものがひっそりと燃え始めても。

あと十年過ぎれば、二十年経てば...
訳の分からない確信がある。
それは、またきっと自分を訪ねて来てくれるに違いないから、と。

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