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2012年6月13日 (水)

一芸

Bu120613


Bさんは、今年45になる。
身長170センチ、体重90キロを超える...普通見た目で「デブ」と言われている。
会社では、真面目だが特に優秀な訳でもなく、女性との噂もなく、酒の席でも何もなく、運動が得意という訳では決して無く...要するに、体型以外は殆ど目立たない存在だった。

彼の会社はいわゆる中小企業だが、不景気なこの時代に珍しく好調を維持していて、社長の趣味と従業員の福利厚生のために年に一度ゴルフコンペを開催していた。
Bさんは、運動に自信が無いためにこのコンペが苦手だった。
初参加でブービーメーカー、その後もずっとメーカーかブービーかの位置から外れることはなかった。

そんなBさんの意識を変えたのが、手酷い失恋だった。
同じ部の5歳下の、美人ではないが明るく優しい女性に心惹かれ、彼女の方も不器用だが誠実なBさんを意識するようになっていった。
仕事の帰りに食事をしたり、酒を飲んだりするようになり、何となくお互いに好意を認め合うような関係になった。
近いうちにプロポーズする気になっていたBさんとの関係が壊れたのは、3年前のゴルフコンペの時。
いつも通りブービーかメーカーでしょうがないと、気のないプレーを続けていたのを後ろの組でプレーする彼女が見ていた。

「あなたはきっと私と結婚した後も、普通の生活でああいうプレーをするのよね。」
プロポーズした時に、彼女はこう言って断った。
...間もなく、彼女は他の男性と結婚して退社して行った。

Bさんにとっては、立ち直れない程のショックだった。
あのゴルフの態度がいけなかった...しかし、運動神経のない自分がどうすれば良かったというのか..

その後、もう彼女が戻って来ないことが判っていても、悔いだけが残った。
ゴルフに立ち向かわなければ、自分が価値のない人間のままになると思い詰めた。
しかし、どんなにレッスン書を読んでも、DVDを見ても、レッスンプロについても、ゴルフの腕は上がらず、スコアも悪いままだった。
しかし、ある練習場のプロに「全部が上手くなるのは無理だから、アプローチかパットだけでも毎日やればいい」と言われて、心を決めた。

パットの練習は、いくらやっても自分の練習とコースのグリーンが重ならず、役に立たない。
でも、アプローチなら自分で一生懸命に続ければ何とかなるかもしれない。

それから、毎日毎日、押し入れから布団をたらし、そこに9番アイアンでアプローチの練習をした。
サンドやピッチングウェッジでは、自分の腕ではザックリやトップが多くてダメ。
7番では、全然力の加減が判らなくてダメ...ということで、小さく振ってきちんと当てることに集中出来たのが9番アイアンだった。
手元を小さく動かして、きちんとフェースに当てて布団の下の方に打つ...それだけを毎日欠かさず続けた。
条件を難しくするために、安い座布団を買って来てその上に立ち、座布団の上にマットを乗せて打ち続けた。
その座布団はもう3回も買い替えた。

出来るだけ安いコースでのラウンドを増やし、距離感を必死に覚えた。
勿論、普通のショットはバコン・ポコンと変な音ばかりだし、飛ばないし、曲がるし、一向にBさんのゴルフが上手くなったなんて誰にも見えない。

しかし、3打目や4打目や5打目でも、グリーンに50ヤード以内に来れば、Bさんはほぼワンピン以内に寄せられるようなった。
後は、パットが入ったり入んなかったり。
しかし、2年前のコンペでは、それまでの平均130オーバーのスコアが99で上がれた。
優勝は無理だったが、社内最大の30のハンデが効いて準優勝になった。
一緒に回った上司が「ショットはヘボなのに、なんであのコロガシだけが上手いんだ?」
もちろんBさんは、自分の特訓のことなど言わずに、「運が良かったので...」
...彼のあだ名は「一芸男」と変わった。

ハンデは一気に24に減らされて、もう上位入賞は難しいけれど、Bさんの毎日の練習は続いている。
ただひたすら「コツン」「コツン」と打っていると、気持ちが落ち着き、無我の境地になれるような気がする。
なんにも自信の無かった自分に、打てば打つだけ自信が溜まって行くような気がする。
原因となった彼女のことも、その存在が軽くなって行った。

「一芸男」との呼ばれ名が、自分の社内の存在感を重くさせていると感じる。
上司や同僚の見る目も変わったと思うし、女性の見る目も「無視」から「存在している」に変わったような気がする。
...なにより、嫌々やっていた「ゴルフ」というゲームがだんだん面白くなって来て、ゴルフ自体を楽しめるようになった。

そうだ、この「一芸」を元にして、もっと自分の芸を増やしてみようか...
今はそんな気持ちになりかけている。

勿論、今日も帰ったら1〜2時間は9番を打つ。

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