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2014年6月 6日 (金)

キャディーM

Bu140523Mさんは今年で85になる。
もう姉妹も夫も先に逝ってしまったけれど、Mさん自身はしっかりとしていて特に病気もボケもない。
見た目はまだ60代で通る程若々しい...と自分では思っている。
足腰はまだしっかりしているし、買い物も散歩も気楽に出かけられる。
他の人から健康の秘訣を聞かれたりするが、特に何をしている訳でもない...今は。

「キャディーをしていたおかげかな」
自分ではそう思っている。
...Mさんは30代半ばからキャディーをしていた。
自分の親戚縁者には誰一人ゴルフをする人なんかいなかった時代、自転車ですぐ行ける距離にあったゴルフ場でキャディーの募集があった。
キャディーという仕事がどんなものかも知らなかったけれど、夫の稼ぎは少なく子供二人を抱えて生活も苦しかったし、当時のこの地域には他にろくな仕事は無かったので必死の思いで応募した。
結構たくさんの女性達が応募していたが、ともかく若くて健康な女性という事でMさんも採用された。

最初はゴルフというものがどういうものかを知る為の訓練と勉強が続いた。
何が面白いのかはさっぱり判らなかったが、1ホール1ホールの地形や形や距離について覚えなければならなかった...独特の名称や英語の言い方やヤードとかフィートとかの単位、複雑なルールや特殊なローカルルール...覚える事は山ほどあって、諦めてやめる人もいた。
Mさんは自分で頭が良いとは思えなかったが、記憶力には自信があった。
だから理屈を考えずに丸覚えに徹した...各ホールの数字を全て記憶する事が出来るようにメモも作った。

実際にキャディーの業務に出てみると、すぐに臨機応変に対処する事は出来なかったけれど、日を重ねるごとに頭の中のデータが増えて行きキャディーとしての評判も上がって行った。
特にグリーンのラインなどは、ついてまわったゴルファーの打ったラインをなるべく覚えるようにしていたら、「あのキャディーさんはラインが判る」と言われるようになった。
当時のこのコースのメンバーは、地元の名士と言われる人々や企業の社長クラスや、議員達や医者や金持ちで、そういう人達がMさんを指名してくれるようになった。
そうして評判が良くなるにつれ、キャディーフィーとしてもらう日当の他にチップをくれる人が増えて、収入はかなり良くなって行った。
生活費や子供の学費もMさんの稼ぎでまかなえるようになり、暮らしに余裕はできた。

しかし、当時のキャディーの仕事は楽ではなかった。
手引きカートに4つのキャディーバッグを乗せた重量はかなりのもので、それを芝の上で引いて歩く事はかなりの肉体労働だった。
コース自体が比較的平らでアップダウンはそれほど無かったけれど、重いキャディーバッグばかりになった時など一寸した坂でどうにも動けなくなる事が何度かあった...そういうときはメンバーの人達が押して助けてくれたけれど。
また、距離として6キロちょっとのコースなのだが、上手くない人が揃うと(殆どの場合そうだった)ホールをジグザグに歩き回る事になるので、実際に歩く距離は10キロを越えるかと思う様な事が多かった。
その為に、家に帰ってくると疲れ果てて、食事の支度をしてすぐにバタンと倒れて寝込んでしまうなんて事が何度もあった。

そんな仕事が20年近く続いたあと、カートは電動式になって楽になった。
しかし、可愛がってくれたメンバーの人たちはだんだんコースに来なくなった。
若返ったゴルファー達にもMさんのコースに対する知識と読みは評判だったので、コースではMさんをキャディーとして置いてくれていたが、同僚達の数は減って行った。
やがて平日はセルフの客が主流となりキャディーを使うゴルファーは減って行ったが、時折来るメンバーの人にはMさんは相変わらず人気があった。
60になった時に定年で辞めようと思っていたが、コース側がメンバーが来る日だけでもMさんに出て来て欲しいというので、日曜祭日や競技のときだけキャディーの仕事を続ける事にした。

その仕事は70近くまで続いた。
しかしそれも、ある日コースが倒産、という事で終わった。
肩の荷が下りた、と言う気がまずしたが...
コースを歩く事が無くなったためか、体重が一気に増えた。
今ままで溜め込んで来た記憶がもう役に立たないのか、と思うのが寂しかった。

一時的な体調の不調は、医者に行って相談して「毎日歩く事」で改善された。
その後特に体調が悪くなる事なく今まで来たけれど、その間に姉妹が亡くなり、夫が先に逝った。

Mさんは思う...キャディーの仕事のおかげで今の健康な自分があり、あの仕事のおかげで子供達は立派に育ち、元気な孫を連れてくる。
ゴルフというものに自分は関わって生きて来た...不思議な事は、それなのに自分は一回もゴルフをした事が無いという事。
キャディーの仕事を始めて少し経った頃、支配人に何度か「自分でもやってみない?」と言われた事はあったけど、当時はとてもそんな余裕は無かったのでそのままになってしまった。

あの頃のお客さんの楽しそうな顔を思い出すと、そんなに楽しいものなら一度はやってみても良かったかな...なんて、Mさんはちょっと思っている。

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